大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(う)1116号 判決

被告人 小沢公三

〔抄 録〕

所論の要旨は、原判決は公務執行妨害罪を認定するについて理由不備、理由のくいちがい、審理不尽又は事実誤認の違法あり、本件公訴事実によれば被告人は巡査二瓶和夫、同後藤保雄の両名から軽犯罪法違反の現行犯人として逮捕され、茅ケ崎警察署駅南口派出所に連行されようとした時、右二瓶巡査の顔面を下駄をもつて強打し原判示の傷害を加え同巡査の職務の執行を妨害したという事実を公務執行妨害の行為として起訴しているのであるが、原判決は被告人が右両巡査の如何なる公務の執行を妨害したと認定したのか不明瞭であり、右公訴事実たる二瓶、後藤両巡査が被告人を軽犯罪法違反の現行犯人として逮捕したとの事実を認めないで、両巡査の警察官職務執行法第二条に定めた職務の執行を妨害したと認定したのではないかとも考えられるが、両巡査が被告人を派出所に連行しようとしたのは任意同行とは認められないが、同法第二条第三項によれば原判決の認定するような同行の強要はできない筈である、もし両巡査が被告人を現行犯として逮捕連行しようとしたとの認定であるとすれば、被告人が如何なる犯罪の現行犯人であるか原判決の認定事実では判らない、いずれにしても原判決に前記の違法があるというのである。

よつて記録を調査するに、被告人に対する本件公務執行妨害罪の公訴事実は、被告人が昭和三十四年七月十八日午後九時四十分ころ、茅ケ崎市茅ケ崎五百七十八番地青木正已方前道路上において、他の数名と共に右青木方の表羽目板を叩き足蹴りなどして騒いだため、茅ケ崎警察署駅南口派出所勤務巡査二瓶和夫、同後藤保雄がこれを制止したがその騒ぎを止めず、被告人が右両巡査に対し暴言を吐いて危害を加えるような態度を示したので右巡査から軽犯罪法違反の現行犯人として逮捕され、同派出所に連行されようとしたところ、下駄をもつて右二瓶巡査の顔面を殴打し、同巡査の職務の執行を妨害したという事実であるが、原判決は、右日時、被告人が酒気を帯び茅ケ崎駅南口の湘南交通株式会社茅ケ崎営業所において係員に対し、同営業所の自動車に泥をはねられたことについて大声でその不当をなじり、また居合せた被告人の友人菊池甲賀男が右営業所の近隣にある青木正己方自転車置場のとたん塀を叩いたところ、その大声や塀を叩く音が近くにある前記巡査派出所に勤務中の巡査二瓶和夫に聞えたので、同巡査は直ちに右とたん塀の場所に行つて見ると被告人が居たので、大声を発したのもとたん塀を叩いたのも被告人の仕業と思い、被告人に対し公衆に迷惑を及ぼすからやめるようにと言つて警察官としての職務上これを制止したところ、被告人はこの制止に立腹し「誰が迷惑するのだ」と放言しながらやにわに同巡査に立ち向つて来たので、同巡査は派出所から出て来た巡査後藤保雄と共に被告人をつかまえようとし、ここで三人でもみ合つたが、その際被告人が履いていた下駄を取り上げこれをもつて二瓶巡査の顔面を殴り左下顎挫傷の傷害を負わせ、同巡査の公務の執行を妨害したという趣旨の事実を認定している。そこで原判決の右認定事実を検討するに、被告人や菊池甲賀男が大声を出したり、とたん塀を叩いた音を聞き、二瓶巡査が被告人に対し、公衆に迷惑を及ぼすからとて警察官の職務上これを制止したというのであるから、この点原判決は同巡査は被告人が軽犯罪法第一条第十四号の犯罪を犯し、また犯そうとしている者と認め、警察官職務執行法第二条第一項の職務を執行した事実を認定したかのように認められるが、次の原判決の認定事実即ち被告人が同巡査の制止をきかず、前記のように放言しながら同巡査に立ち向つて来たので同巡査は後藤巡査と共に被告人をつかまえようとして三人でもみあつたとの事実は、被告人が右軽犯罪法第一条第十四号違反の行為をしたので両巡査が被告人を逮捕しようとした事実を認定したのか、それとも、被告人が二瓶巡査の前記警察官職務執行法第二条第一項の職務の執行を妨害した事実を認定したのか、判文が曖昧で理解することができない。「制止をきかず……立ち向つて来たので」というのであるから後者の職務執行妨害の事実を認定したようでもあり、「つかまえようとした」という言葉を用いているから、起訴事実のとおり、前者の逮捕行為を認定したようにも解せられるし、また現行犯とか、逮捕という言葉を用いないで殊更「つかまえようとした」という言葉を用いているところから考えると両巡査の右行為は法律上の犯人の逮捕行為ではなく、単に被告人を制止するための実力行為を表現したものと解せられないこともない。

要するに原判決は、二瓶巡査の職務執行行為として、同巡査が最初に被告人に対し公衆に迷惑を及ぼすからとて制止した行為を認定したのか、あるいは更に進んで同巡査が後藤巡査と共に被告人を「つかまえようとした」行為をも職務の執行と認定したのか、そして二瓶巡査の右各行為は警察官として如何なる職務の執行に当ると認めたのか、結局原判決は前記公訴事実のとおり二瓶巡査の公務執行行為を認定したのか、あるいはそれと異なる他の事実を認定したのか、原判決の摘示事実を仔細に吟味しても判文がまことに曖昧、不明瞭かつ不正確でついにそのいずれであるかを理解することができない。このことは被告人の犯罪行為の認定として不十分であり、これは原判決が刑事訴訟法第三百七十八条第四号に規定する、判決に理由を附せず又は理由にくいちがいのある場合に該当するものといわざるを得ない。論旨は理由があり、被告人小沢に対する原判決はこの点において全部破棄を免れないものである。

控訴趣意第二点について

所論の要旨は、被告人は二瓶巡査の顔面を下駄で殴打し傷害を与えたことはなく、この点原判決には事実誤認、審理不尽又は採証の法則に違背した違法があるというのである。しかし記録を調査すると原審においては所論の点に関し十分な証拠調をしていることが認められるし、原判決に挙示する証拠により被告人が二瓶巡査の顔面を下駄で殴打し原判示のような傷害を与えた事実を十分認めることができるから、原判決には所論のような事実誤認その他の違法はない。それ故この点の論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十八条第四号により原判決中被告人に関する部分を全部破棄し、同法第四百条但書に従い当裁判所は自ら次のように判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三十四年七月十八日午後九時四十分ころ茅ケ崎市茅ケ崎五百七十八番地青木正己方前道路上において植松清一、菊池甲賀男、富田貞良と共に大声を出したり青木方のとたん羽目板を叩いたり足蹴りなどして騒いだので、茅ケ崎警察署駅南口派出所勤務巡査二瓶和夫が、被告人に対し静かにしないと軽犯罪法違反になるからと申し向けて制止したにも拘らず、なおも騒ぎを止めようとしないので、同巡査は同派出所勤務の巡査後藤保雄と共に、警察官職務執行法第二条により被告人を前記派出所に同行を求め同所に向つて歩行中、被告人は突然下駄をもつて二瓶巡査の顔を殴りつけ同巡査の職務の執行を妨害し、その暴行により同巡査に全治五日間を要する左下顎部挫傷の傷害を負わせたものである。

(久永 上野 赤塔)

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